唇の腫れは炎症やアレルギーなどさまざまな原因によって引き起こされます。しかし、治療をしても症状が良くならない場合や再発を繰り返す場合は、思いもよらない病気が原因となっている可能性があります。遺伝性血管性浮腫(HAE)もその一つです。 今回は、唇の腫れの原因と遺伝性血管性浮腫(HAE)について詳しく解説します。

【目次】

唇の腫れの原因とは?

唇は角質が他の部位と比べて非常に薄く、デリケートで多くの刺激を受けやすい部位です。そのため、些細な原因で腫れてしまうことがあります。まず、唇の腫れは主にどのような原因によって引き起こされるのか見てみましょう。

口内炎

口内炎とは、口の中の粘膜に炎症が生じて腫れや赤み、ただれなどの症状を引き起こす病気です。口内炎はウイルス感染、やけど、ストレスなど原因は多岐にわたりますが、多くは数日で自然に改善します。唇の裏の粘膜に口内炎ができると唇の腫れが生じることがあり、痛みを伴うのが特徴です1)

アレルギー

アレルギーも唇の腫れの原因となります。アレルギーを引き起こす原因物質としては食べ物、金属、化粧品などさまざまなものが挙げられます。 近年では特定の果物や野菜を食べると口の中にかゆみや腫れが生じる「口腔アレルギー症候群」の発症者が増えており、特に花粉症の人に発症しやすいと考えられています2) 。重症な場合には、のどの粘膜が腫れて呼吸困難が生じるなど命に関わる症状が現れるケースもあるため注意が必要です。

感染症

唇の腫れは単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる「口唇ヘルペス」が原因のこともあります。口唇ヘルペスは唇や唇の周囲に痛みを伴う水ぶくれや腫れを引き起こす病気であり、一度改善しても体調が悪いときなど免疫力が低下すると再発するのが特徴です。基本的には抗ウイルス薬を使用すると数日で改善します。

その他の病気

唇の腫れの原因はさまざまありますが、なかには遺伝性血管性浮腫(HAE)などの珍しい病気によって引き起こされるケースがあります。そのような場合には正確な診断が下されるまでに時間がかかることも多く、再発を繰り返してしまうケースも少なくありません。唇の腫れは数日で改善することがほとんどですが、症状が改善しない場合や再発する場合は注意が必要です3)

遺伝性血管性浮腫(HAE)でも唇が腫れることがある

繰り返す唇の腫れは遺伝性血管性浮腫(HAE)が原因かもしれません。遺伝性血管性浮腫(HAE)とはどのような病気なのか詳しく見てみましょう

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは、遺伝によって唇、顔、手足、消化管、喉などに浮腫(腫れ)を引き起こす病気です。5万人に1人という珍しい病気ですが、全身のさまざまな部位に浮腫(腫れ)が生じる発作が繰り返されます3)。症状は数日で自然と改善しますが、遺伝性血管性浮腫(HAE)は皮膚だけでなく粘膜にも浮腫を引き起こすため、喉に浮腫が生じると呼吸困難などの重篤な症状が現れることもあります。

遺伝性血管性浮腫(HAE)になる原因はある?

塩遺伝性血管性浮腫(HAE)は遺伝子の異常によって引き起こされる病気で、上述したように発作のような浮腫(腫れ)症状を繰り返します。発作はストレス、生理、風邪、抜歯など身体に何らかの負担がかかったときに生じやすいとされています。

こんな唇の腫れは遺伝性血管性浮腫(HAE)かも

次のような症状に当てはまる唇の腫れは遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性があります。思い当たる場合は、専門の医療機関に相談しましょう。

嘔吐・腹痛・呼吸困難などを伴う

遺伝性血管性浮腫(HAE)は皮膚だけでなく消化管やのどの粘膜にも浮腫(腫れ)を引き起こすのが特徴です。消化管に浮腫(腫れ)が生じると強い腹痛や嘔吐などの症状が生じ、のどの粘膜の浮腫(腫れ)は重症化すると呼吸困難を引き起こします。

腫れる位置は唇以外のことがある

遺伝性血管性浮腫(HAE)では、唇の腫れだけを繰り返すのではなく、手や腕、足また腹部などが腫れることもあります。

痛みやかゆみがない

遺伝性血管性浮腫(HAE)による皮膚の腫れは痛みやかゆみを伴わないのが特徴です。感染症やアレルギーによる腫れは痛みやかゆみを伴いますが、痛みやかゆみを伴わない皮膚の腫れが繰り返される場合は遺伝性血管性浮腫(HAE)の症状である可能性があります。

まとめ

唇の腫れはさまざまな原因がありますが、はっきりした原因がないにも関わらず症状が繰り返される場合は遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性も考えましょう。重症化すると強い腹痛や呼吸困難などの症状を引き起こす場合もあるため、早期診断・早期治療が大切です。 また、遺伝性血管性浮腫(HAE)は医学の進歩により治療薬も開発されています。 次のチェックシートで当てはまる項目が多い場合は遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性を念頭に置き、専門の医療機関に相談しましょう。

【監修医師】
田中 暁生
広島大学病院皮膚科 皮膚科長・教授
経歴:2000年広島大学医学部卒業。
診療科目:アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、血管性浮腫、再生医療など。
参考文献
  • 1) 日本歯科医師会:口の中の腫瘍(がん)
  • 2) 日本アレルギー学会:口腔アレルギー症候群
  • 4) 日本補体学会:遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE) 診療ガイドライン 改訂2019年版