手足のむくみは誰にでも生じる症状です。原因は生活習慣の悪化や病気など多岐にわたります。むくみは痛みやかゆみなどの不快な症状を伴わないケースが多いため軽く思われがちですが、なかには治療が必要な場合もありますので注意が必要です。特に遺伝性血管性浮腫(HAE)は珍しい病気のため、見逃されているケースも少なくない1) と考えられています。
そこで今回は、手足のむくみの原因について詳しく解説します。
手足のむくみはなぜ起こる?
むくみは、医学的に「浮腫(ふしゅ)」と呼ばれる症状のことです。
私たちの身体は多くの水分でできており、成人では身体の60%、新生児では身体の80%が水分とされています。身体の中の水分はバランスよく保たれていて、身体の約40%を占める水分は一つひとつの細胞の中、5%が血液中、15%が細胞と細胞の間に存在します。細胞と細胞の間に存在する水分は「細胞間質液」と呼ばれますが、むくみはこの細胞間質液が増えることによって引き起こされる症状です2) 。
血管の壁にはとても小さな穴が開いており、血液中の水分は血管の外に漏れ出たり、細胞間質液が血管の中に吸収されたりしています。このような水分のやり取りのバランスが崩れて細胞間質液が増えるとむくみが引き起こされるのです3) 。
手足のむくみの病気以外の原因は?
手足のむくみはさまざまな原因によって生じますが、多くは一時的なもので健康上の問題となることはありません。具体的には、以下のような原因が挙げられます。
長時間同じ姿勢でいる
長時間同じ姿勢でいると血流が悪くなるため、むくみが生じやすくなります。特に長時間のデスクワークや立ち仕事には要注意です。足から心臓に戻る血液が停滞して血液中の水分が血管の外に漏れ出しやすくなり、細胞間質液が増えることでむくみを引き起こします。
塩分の摂り過ぎ
塩分の摂取量が増えると、体内の水分の浸透圧が高くなります。その結果、身体の中に水分を溜めて浸透圧を低くしようとする仕組みが働くため、むくみが生じやすくなります。
アルコールの飲み過ぎ
アルコールには血管を拡げる作用があります。過度な飲酒をすると血管内から血管外に漏れ出す水分量が多くなり、むくみが生じやすくなると考えられています。また、アルコールとともに口にするおつまみは高塩分のものが多く、さらにむくみがひどくなるという悪循環に陥っているケースも少なくありません。
運動不足
全身を巡って心臓へ戻る血液が通る静脈は、筋ポンプ作用(筋肉の収縮・弛緩によるポンプ作用)によって流れています。その結果、運動不足が続いて筋力が低下すると静脈内に血液が停滞しやすくなり、血管外に漏れ出す水分量が増えてむくみが生じます。
身体の冷え
身体が冷えると血管が収縮するため、血行が悪化して血管内に血液が停滞することで、血管の外に水分が押し出されるようになります。細胞間質液が一定以上増えるとむくみます。
ホルモンバランスの変化(女性)
女性の身体ではエストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが分泌されています。このうち、プロゲステロンは体内に水分を溜める働きをもつため、生理前などプロゲステロンの分泌量が増える時期はむくみが生じやすくなります。
薬の副作用
高血圧や糖尿病の薬、ステロイドや鎮痛剤などは副作用としてむくみが生じることがあります。新しい薬を飲み始めてからむくみを自覚するようになった場合は、副作用の可能性があります。医師や薬剤師に相談しましょう。
手足のむくみは病気のサインの可能性もあり!
むくみの多くは生活習慣の悪化などによって引き起こされます。一時的なものであるため特別な治療の必要はないケースがほとんどです。
一方で、むくみのなかには何らかの病気が原因になっている場合もあります。次のような症状がある場合は病気によるむくみの可能性がありますので注意です。軽く考えずに病院を受診しましょう。
- 突然むくみが生じるようになった
- むくみ以外にお腹の張りなどの症状がある
- 生活改善をしてもむくみが改善しない
遺伝性血管性浮腫(HAE)という病気でも手足のむくみが起きる
むくみを引き起こす病気は多岐にわたりますが、珍しいため見逃されることがあるものに、「遺伝性血管性浮腫(HAE)」があります。原因がはっきりわからないむくみが続く場合は、遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性も否定できません。どのような病気なのか見てみましょう。
遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?
遺伝性血管性浮腫(HAE)とは、体内でブラジキニンと呼ばれる物質が多く産生されることで血管内から水分が漏れ出しやすくなる病気のことです。発症の原因は遺伝子の変異であることがわかっており、日本では400名程度の方が遺伝性血管性浮腫(HAE)と診断されて治療を受けています3) 。しかし、実際には見逃されているだけで、もっと多くの方が遺伝性血管性浮腫(HAE)を発症していると考えられています1) 。
遺伝性血管性浮腫(HAE)による手足のむくみ
遺伝性血管性浮腫(HAE)は皮膚や消化管に腫れやむくみが繰り返し生じる病気です。症状は全身のさまざまな部位や臓器に引き起こされ、発症した場合は数日間むくみが続きます。症状が現れる頻度や発症年齢には個人差がありますが、多くは10代から20代までに発症します。
この病気は、ストレス、妊娠、生理、歯科治療などが引き金となって突然発作のように症状が現れるのが特徴で、発症部位によっては、非常に強い腹痛や呼吸困難などの重篤な症状を引き起こすことも少なくありません4) 。
まとめ
手足のむくみは日常的に誰にでも生じる症状です。原因はさまざまですが、多くはここで紹介したような生活習慣の乱れであり一時的なものと考えられます。一方で、むくみは病気によって引き起こされることもあるため、何日間もむくみが続く場合や他の症状がある場合は注意が必要です。
なかでも遺伝性血管性浮腫(HAE)は珍しい病気で見逃されているケースも少なくありません。原因がはっきりわからないむくみが繰り返される場合は、遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性もあります。気になる場合はセルフチェックシートでチェックし、かかりつけ医への相談やHAEの診断・治療ができる医療機関を受診してみましょう。
- 【監修医師】
- 田中 暁生
- 広島大学病院皮膚科 皮膚科長・教授
- 経歴:2000年広島大学医学部卒業。
- 診療科目:アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、血管性浮腫、再生医療など。
- 参考文献
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- 1) 岩本和馬ほか:遺伝性血管性浮腫の全国実態調査
- 2) 中外医学社:浮腫のメカニズム
- 3) 日本小児腎臓病学会「浮腫の診かた・考え方」
- 4) 日本補体学会:遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE) 診療ガイドライン 改訂2019年版