HAE(遺伝性血管性浮腫)は、その名の通り、家族性の単一遺伝子異常による疾患ですが、何らかの原因で遺伝子に新生変異(両親ともに正常だった遺伝子に新たに変異が起こる)が起こって発症することもあります[孤発例(こはつれい)と呼ばれます]。海外の報告では約75%が常染色体顕性(優性)遺伝形式注)をとり、残り約25%が家族歴のない孤発例とされています1)

遺伝の形式と家族歴

国内におけるHAE患者の調査では、家族歴ありが78%. 孤発例が22%と報告されており、欧米の結果と同様でした2) 。最近、C1インヒビターに異常がない、HAE患者さんが見つかっています。


HAEのタイプ(病型)

HAEは、C1インヒビターの異常によるタイプ(I型およびⅡ型)とC1インヒビターの遺伝子には異常を認めないタイプ(Ⅲ型)の3つに分類されます3)(表1、表2)。ほとんどの患者さんはⅠ型またはⅡ型であり、Ⅲ型はごく少数と考えられています。

  • 3) Han ED, et al. J. Clin. Invest. 109(8):1057-1063, 2002
表1:HAEの特徴
HAEⅠ型 遺伝子の異常によって、C1インヒビターの作られる量が少ないタイプ。HAE全体の約85%を占めています。
HAEⅡ型 遺伝子の異常によって、C1インヒビターの作られる量は正常ですが働きが弱いタイプ。全体の約15%を占めています。
HAEⅢ型 C1インヒビターの作られる量、働きともに正常であり、極めてまれなタイプ。
表2:HAEの特徴
特徴 HAEⅠ型/Ⅱ型 HAEⅢ型
発症年齢 10歳代に多い 20歳代以降が多い
男女比 やや女性に多い(4:6程度) ほとんど女性
頻度 5万人に1人 10万人に1人
浮腫の部位 四肢>顔面 顔面>四肢
遺伝形式 常染色体優性 常染色体優性(浸透率低い)
原因遺伝子 すべてCI-INH 25%は凝固第XII因子の機能亢進を伴う変異
増悪因子 外傷、抜歯、ストレス、感染、妊娠、ACE阻害薬 妊娠、エストロゲン製剤の関与が大きい
治療 抗ヒスタミン薬、ステロイドは無効、
CI-INH製剤、ブラジキニン受容体阻害薬、カリクレイン阻害薬など
抗ヒスタミン薬、ステロイドは無効、
HAEⅠ型、Ⅱ型の治療薬が有効な場合がある

一般社団法人日本補体学会HAE ガイドライン作成委員会:遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)診療ガイドライン 改訂 2019 年版(堀内孝彦 他 日本補体学会学会誌「補体」 57(1):3-22, 2020)より改変

HAEの浮腫形成におけるメカニズム

HAEの浮腫形成に直接的な役割を果たしているのはブラジキニンという炎症メディエーター(化学伝達物質)です1)
ブラジキニンは、C1インヒビターによる抑制が十分でないと過剰に活性化され、血管内皮細胞を収縮させ内皮細胞間の隙間を広げます。その結果、血管の透過性が高くなり水分が血管外に漏れ出し浮腫を引き起こします()。

C1インヒビターは、血液中に存在してさまざまな機能を担っておりますが、そのうちのひとつが、「ブラジキニン」の生成量の制御です。「ブラジキニン」は血圧の調節や炎症にかかわっていて、「ブラジキニン受容体」という受容体にくっつくと、むくみや強い痛みを引き起こします。

通常は、「ブラジキニン」が増えすぎないよう、C1インヒビターが制御してますが、HAE患者さんの場合、C1インヒビターが少ないまたは、うまく働かなかったりすることから、「ブラジキニン」が増えやすい状態になっています。

特にストレス、手術、抜歯などの刺激によりブラジキニンが急激に増加し、激しい腫れやむくみ、腹痛が起こると考えられています。

注)常染色体顕性(優性)遺伝
常染色体顕性(優性)遺伝は、男性、女性ともに症状が現れます。片方の親が、もう片方の親の遺伝子の特性を押さえつけるような遺伝子をもつ場合、その遺伝子を優性遺伝子といい、その遺伝形式を優性遺伝といいます。

図:HAE患者における「腫れ」や「むくみ」の症状の根本的な原因
図:HAEにおける浮腫形成のメカニズム
  • 左側:「通常の場合」:健康な血管の状態が示されています。この状態では、血管内の液体(水分)が血管内に保たれ、必要以上に血管外に漏れ出すことはありません。血管内皮細胞は正常に機能し、血管の透過性は保たれています。

  • 右側:HAE(遺伝性血管性浮腫)の患者さんがストレス等を受けると、血管内のブラジキニンが過剰に活性化されることになります。結果、血管内の細胞が縮んで、血管内皮細胞間の隙間が広がり、血管の透過性が増加します。そして、水分が血管外に漏れ出して、浮腫や腫れが生じます。

このメカニズムは、HAE患者における「腫れ」や「むくみ」の症状の根本的な原因となります。