急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)は、のどの喉頭蓋と呼ばれる部位やその周囲が強く腫れて呼吸が苦しくなる病気です。進行すると窒息する危険もあり、早急な治療が必要です。急性喉頭蓋炎の多くは細菌感染によって引き起こされますが、治療をすれば再発することは少ないことが多いです。しかし、同じような症状を繰り返す場合は遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性も考えられます。
今回は、急性喉頭蓋炎と遺伝性血管性浮腫(HAE)の関連性について詳しく解説します。

急性喉頭蓋炎とは

急性喉頭蓋炎とは、のどの奥にある喉頭蓋やその周囲に炎症が生じて強く腫れる病気のことです。喉頭蓋は気道の入り口に位置し、物を飲み込んだときに気道に蓋をして飲食物や唾液などが気管に入り込むのを防ぐ働きを担っています。
急性喉頭蓋炎は、発症すると喉頭蓋や周囲の組織が強く腫れるため気管に十分な空気が送られなくなり、重症な場合には窒息する危険もある病気です。皮膚からのどに穴を開けて空気の通り道を確保する治療が必要になるケースもあり、極めて緊急性が高い病気といえますが、順調に回復すれば1~2週間程度で喉頭蓋の腫れも治まります1)

急性喉頭蓋炎の原因

急性喉頭蓋炎の主な原因は細菌感染による炎症です。特に、免疫機能の異常を引き起こす自己免疫疾患や糖尿病などの病気、ストレスや喫煙などの好ましくない生活習慣などがある場合は、急性喉頭蓋炎の発症リスクが高くなると考えられています2)
そのほか、首周囲のがんに対する放射線治療、魚の骨などの異物がのどに刺さること、やけど、重度なアレルギーなどによって急性喉頭蓋炎が引き起こされることも知られています。
なお、急性喉頭蓋炎は女性よりも男性に発症しやすく、50歳代で発症することが多いとされています3)

急性喉頭蓋炎の症状

急性喉頭蓋炎は上述したように、気道が閉塞して窒息を引き起こすことがあります。しかし、発症後間もない段階では発熱やのどの痛みなど一般的な風邪の症状とともに、物の飲み込みにくさといった症状が現れます。そして、喉頭蓋の腫れが強くなると気道が狭くなることで息苦しさ、首全体の痛み、吸気性喘鳴(息を吸ったときにゼイゼイすること)などの症状が現れるようになります。進行するにつれて痛みはひどくなり、唾液を飲み込むことができなくなってよだれが出るようになることも少なくありません。そして腫れが強くなると気道が塞がって窒息する危険が高まります1),2)
急性喉頭蓋炎は子どもから高齢者まですべての年代で発症する可能性がある病気ですが、気道が細い子どものほうが重症化するスピードが速いとされているため、注意が必要です。

急性喉頭蓋炎と間違われやすい遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

急性喉頭蓋炎は、のどの喉頭蓋とその周囲の組織に炎症による腫れが生じて気道が狭くなる病気です。急性喉頭蓋炎は主に細菌感染によって引き起こされますが、遺伝性血管性浮腫(HAE)という病気も急性喉頭蓋炎と似た症状を引き起こすことがあります。
遺伝性血管性浮腫(HAE)とはどのような病気なのか詳しく見てみましょう。

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは、遺伝子の変異によって皮膚や粘膜に腫れを引き起こすブラジキニンと呼ばれる物質が過剰に増える病気です。発症すると顔、腕、足などの皮膚、消化管やのどの粘膜に突然の腫れが繰り返し現れますが、薬剤によって症状を鎮めたり発作を予防することができます4)

遺伝性血管性浮腫(HAE)と急性喉頭蓋炎で異なる症状

遺伝性血管性浮腫(HAE)も急性喉頭蓋炎と同じようにのどの粘膜に強く腫れが生じて、呼吸困難を引き起こすことがあります。そのため、遺伝性血管性浮腫(HAE)は急性喉頭蓋炎と間違われるケースもあります。
しかし、遺伝性血管性浮腫(HAE)は急性喉頭蓋炎のように炎症によって引き起こされている腫れではないため、強い痛みを生じず発熱しないことが特徴です。血液検査を行っても炎症反応は高くありません。また、一般的に急性喉頭蓋炎を繰り返すことはまれですが、同様の症状を繰り返す際は遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性も考える必要があります4)

遺伝性血管性浮腫(HAE)が疑われる場合はどうする?

遺伝性血管性浮腫(HAE)も急性喉頭蓋炎のように窒息の危険がある症状を引き起こすため、注意しなければならない病気の一つです。しかし、遺伝性血管性浮腫(HAE)は5万人に1人程度の非常に珍しい病気であるため、病気のことを詳しく知らない医療従事者もいると考えられます4)
急性喉頭蓋炎と似た症状を繰り返すような場合には、遺伝性血管性浮腫(HAE)のセルフチェックシートを使用してみましょう。該当する項目が多い場合は、遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性も否定できないため専門的な診察や治療が受けられる医療機関を受診しましょう。

まとめ

急性喉頭蓋炎を発症すると気道が狭くなる病気で、重症化すると窒息の危険があります。早期診断、早期治療が大切な病気ですが、なかには似た症状が現れる病気もあります。
急性喉頭蓋炎と似た症状を繰り返す場合には遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性を考えましょう。セルフチェックシートでチェックし、該当する項目が多い場合は遺伝性血管性浮腫(HAE)かもしれません。できるだけ早く専門的な医療機関に相談しましょう。

【監修医師】
本田 大介
千葉大学医学部附属病院 腎臓内科 診療講師
経歴:札幌医科大学2009年卒業
診療領域:腎疾患一般、透析療法、遺伝性血管性浮腫など
参考文献
  • 1) 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「頭頸部外科が扱う代表的な病気」
  • 2) 順天堂大学医学部附属順天堂医院耳鼻咽喉・頭頸科「急性喉頭蓋炎の概要」
  • 3) 日本耳鼻咽喉科感染症研究会「急性喉頭蓋炎の診断・治療における問題点と対策-成人における問題点-」
  • 4) 日本補体学会「遺伝性血管性浮腫(HAE)(Hereditary angioedema:HAE) 診療ガイドライン 改訂2019年版」