現在、HAEを完全に治す治療法はありません。HAEの治療は発作(腫れや痛み)が起きたときの治療と予防の2つに分けられます。

発作時の治療

わが国では現在、「ブラジキニン受容体阻害薬」と「C1インヒビター製剤」による治療が保険適応となっています。

ブラジキニン受容体阻害薬

腫れや痛みの原因であるブラジキニンの働きを阻害して血管の拡張や血管透過性亢進を抑えることで、腫れや痛みを起こさないようにします。
現在、国内で使用できるブラジキニン受容体阻害薬は、皮下注射のお薬です。かかりつけの医療機関で指導を受けた上で、自己注射が可能です。
海外の「遺伝性血管性浮腫診療のためのWAO/EAACI ガイドライン」では、HAE患者さんは常に少なくとも発作2回分の治療に相当するお薬を常に携帯しておくことが推奨されています1)

C1インヒビター製剤

C1インヒビター製剤は、ヒトの血液を原料としてC1インヒビターを製剤化したお薬です。
HAE患者さんで不足しているC1インヒビターをお薬として補充して、腫れや痛みを緩和します。医療機関で静脈注射や点滴で投与します。

発作の予防

短期と長期の予防があります。短期の予防としては、手術、出産、歯科治療などの侵襲(からだを傷つける行為)を伴う処置を行う時に、急性発作の発症を抑えるためにC1インヒビター製剤を投与します2) 。また、長期にわたる発作の予防には血漿カリクレイン阻害剤またはC1インヒビター製剤が投与されます。

  • 1) Maurer, M. et al. The international WAO/EAACI guideline for the management of hereditary angioedema - the 2021 revision and update. Allergy, doi:10.1111/all.15214 (2022).
  • 2) 一般社団法人日本補体学会HAE ガイドライン作成委員会:遺伝性血管性浮腫(HAE) ガイドライン改訂2019 年版.2020. (堀内孝彦 他 日本補体学会学会誌「補体」 57(1):3-22, 2020)

手術や処置前の発作リスク管理(短期予防)

C1インヒビター製剤

短期的な発作抑制に用いられるC1インヒビター製剤は、医療機関で静脈注射または点滴によって投与される必要があります。一般的に、処置の前に6時間以内に投与を受けることが推奨されます。

抜歯など、侵襲(身体を傷つけること)を伴う医療処置の実施が予定されている場合は、HAEの発作を防ぐために予めC1インヒビター製剤を静脈内投与することができます。急性発作時の治療として投与されるC1インヒビター製剤と同一有効成分で、急性発作の発症抑制を目的として皮下注用製剤として開発されたお薬です。

日常生活での発作予防と管理(長期予防)

血漿カリクレイン阻害剤

血漿カリクレイン阻害剤は腫れや痛みの原因であるブラジキニンを放出する血漿カリクレインの働きを阻害して、HAE患者さんにおける過剰なブラジキニン生成を抑えます。経口剤(飲み薬)と皮下注製剤(皮膚に打つ注射)があり患者さんのライフスタイル等によって主治医と相談して選択できます。
経口剤は1日1回の服薬、皮下注製剤は2週間隔で打つことで発作を予防または頻度を減らすことができます。
皮下注製剤は持ち運びができるため、医療機関に行かずに自宅や旅行先などで自分で注射を行うことも可能です。

表2:HAEの特徴
急性発作治療薬 予防薬
ブラジキニン受容体阻害薬
C1インヒビター製剤
【短期予防】C1インヒビター製剤
【長期予防】経口血漿カリクレイン阻害剤
【長期予防】完全ヒト型抗ヒト血漿カリクレインモノクローナル抗体
【長期予防】C1インヒビター皮下注射製剤

予後

HAEの予後は、おおむね良好ですが、喉頭浮腫は窒息死をもたらす危険性があるので適切な治療が必須となります。診断がついていても発作を起こさないこともありますが、発作を起こした場合には早期診断と早期治療が重要となります。

繰り返す腫れやむくみ、痛みの症状がある方は、ぜひHAEのセルフチェックを行いましょう。セルフチェックのページでは、症状の自己診断が簡単にできますので、健康管理にお役立てください。

HAEの発作の主な原因・引き金

HAE(遺伝性血管性浮腫)の発作の「引き金」を把握することが重要です。HAE(遺伝性血管性浮腫)の発作を予防するためには、患者さんやそのご家族が発作を引き起こす可能性のある要因を理解し、それをできるだけ避ける努力をすることが必要です。

発作を引き起こす原因は主にストレスが考えられます。

心理的ストレス

心理的ストレス

感情的なストレス: 緊張、心配、怒りなどの強い感情。
精神的なプレッシャー: 職場や家庭でのプレッシャー、対人関係の問題。

身体的ストレス

身体的ストレス

外傷や手術: けがや手術、特に侵襲的な処置。
激しい運動: 運動による身体的な負荷や過度の疲労。
感染症: 風邪やインフルエンザなどの感染による体調不良。

生理的ストレス

生理的ストレス

ホルモンの変動: 生理周期、妊娠、出産などによるホルモンバランスの変化。

女性の場合、生理や妊娠・出産などが症状を悪化させることがあります。特にエストロゲンを含む経口避妊薬が発作の引き金となることがあるため、これらの薬剤の使用については主治医と相談することが大切です。

HAEの発作の予兆

人によってHAE発作の前兆となるサインがあらわれる場合もあります。早めにHAEの発作に気づいて医療機関を受診するためにも、ご自分が感じやすい予兆を知っておくとよいでしょう。

HAEの症状が起こる数時間前に、HAE発作の前兆となるかゆみを伴わない「環状の赤い発疹」(写真) が腕や手、お腹の皮膚などにあらわれる場合があります。比較的多くみられる特徴的な予兆は、腕やお腹などに出現する輪状紅斑(皮膚が輪っか状に赤くなる)で、半数以上の患者さんに認められたという報告があります1)
声がかすれる、呼吸音がヒューヒュー・ゼーゼー鳴る、せき、息切れなどがある場合は、発作でのどが腫れているサインかもしれません。のどの腫れは窒息につながる恐れがあるため、苦しいときはためらわずにすぐ受診しましょう。
そのほか、発作前に体がだるい、神経が過敏になる、不安になる、疲れがとれない、吐き気がするなどの前兆があらわれる場合があります。

HAE(遺伝性血管性浮腫)を相談できる病院を探す

HAE-infoでは、HAEの診療(診断・治療)について相談できる医療機関を地域別にご紹介しております。

HAE(遺伝性血管性浮腫)の治療には、適切な医療機関や専門医のサポートが不可欠です。また、家族や介護者も重要な役割を果たします。以下の情報を参考にして、効果的なサポート体制を整えましょう。

日常生活で気を付けること

自身がHAE患者であることは外見上はわからない場合がほとんどです。また、希少疾患であるがゆえ、まだまだ一般的に認知されていない疾患です。
環境の変化や特別なストレスなどによってHAEの発作が起こることを、家族、友人、学校や会社など周りの人に知らせておくとよいでしょう。患者さんやそのご家族が発作の引き金になるものを把握し、できるだけ避けるように心がけることが大切です。心理的・身体的・生理学的なさまざまなストレスが発作の引き金になることが知られています。
また、HAE以外の病気で医療機関を受診する際は、自分がHAEであることを医師に伝えるようにしましょう。