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- 質問: HAEの治療はどのようなものがありますか?
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回答:
HAEの治療は、発作(腫れや痛み)が起きたときの治療と予防治療の2つに分けられます。
発作時の治療には、「ブラジキニン受容体阻害薬」と「C1インヒビター製剤」が保険適応で使用されます。「ブラジキニン受容体阻害薬」は腫れや痛みの原因であるブラジキニンの働きを阻害して血管の拡張や血管透過性亢進を抑えることで、腫れや痛みを起こさないようにします。「C1インヒビター製剤」は、HAE患者さんで不足しているC1インヒビターをお薬として補充して、腫れや痛みを緩和します。発作の予防には、短期と長期の予防があります。短期の予防としては、手術、出産、歯科治療などの侵襲(からだを傷つける行為)を伴う処置を行う時に、急性発作の発症を抑えるために「C1インヒビター製剤」を投与します1) 。また、長期にわたる発作の予防には「血漿カリクレイン阻害剤」が経口投与または皮下注射されます。
「血漿カリクレイン阻害剤」は、腫れや痛みの原因であるブラジキニンを放出する血漿カリクレインの働きを阻害して、HAE患者さんにおける過剰なブラジキニン生成を抑えます。1) 一般社団法人日本補体学会HAE ガイドライン作成委員会:遺伝性血管性浮腫(HAE) ガイドライン改訂2019 年版.2020. (堀内孝彦 他 日本補体学会学会誌「補体」 57(1):3-22, 2020)
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- 質問: 自分にとって適切な治療が何か、どうやって知ることができますか?
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回答:
「適切な診断、治療を受けるために正しい情報にアクセスすること」です。そこから全てが始まりますし、HAEとしっかりと向き合っていくためにも重要なことです。
正しい情報を得るためには、「適切な専門家の意見を聞く」のが最も信頼できますし、近道です。そのため、できるだけ専門の医療機関を紹介できる病院や医師を受診するようにしてください。距離や時間的な問題で、ご家族やご本人が専門家に直接話を聞くことが難しい場合もあるかと思います。そのような場合には主治医の先生に窓口となっていただき、そこから専門家に連絡をとるという方法でも良いと思います。また、ご自身で専門家のいる医療機関の情報をインターネットで調べることもできます。
また、現在はHAEの正しくてわかりやすい情報が当サイトのようにインターネットで簡単に見つかります。インターネットの情報は、重要な情報源の一つだといえます。
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- 質問: 日常生活ではどのような事に気を付ければよいですか?
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回答:
HAEの発作を起こす誘因となるのは、心労、疲れ、寝不足などの精神的・肉体的ストレスなどです。そのため、こうしたことはできるだけ避けるようにしてください。避けられない場合は、意識的に身体を休めて、早く改善するような努力をしましょう。手術や歯科治療、服用しているお薬(ホルモン剤、ACE阻害薬等)、生理や妊娠・出産も発作を引き起こす可能性がありますので、主治医の先生に相談してください。
また、HAEであることや発作時の対処法などを学校や会社、友人に伝えておきましょう。発作が急に起こったとき、周囲の人が異変にすぐに気づき慌てず迅速な対応ができます。
発作が起きたら我慢しないでください。発作は生活や命に影響をおよぼすことがあるため、どの部位の発作でも重症化予防と早期回復のためにも早期に治療をすることが重要です。特にのどや口の中に発作が起きた場合は命取りになることがあるので、すぐに対処することが重要です。HAEの発作は、時間が経てば経つほど血管から水が漏れ出る量が増えていってしまいます、発作が起きてから治療を始めるまでの時間が長くなればなるほど、回復に要する時間も長くなってしまいます。ですから、とにかく早く治療した方が、その日や翌日に予定していたことを、きちんとこなせるようになります。
発作の記録(発作の部位、はじまり・終わり、発作の強さ、発作前の症状や体調など)をつけることで、主治医に正確な情報を伝えることができ、関連が予想される発作の誘因を認識することもできるので治療に役立つことになります。
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- 質問: 国内・海外旅行時にはどのような準備が必要ですか?
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回答:
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国内旅行時
旅行や出張に行くときは、事前に主治医の先生に相談し、現地でHAEに対応できる医療機関を教えてもらったり、紹介状を書いてもらうなどして、旅先で受診した際にスムーズに治療が受けられるようにしておきましょう。
また、同行する人に病気について伝えておくと、緊急時に助けてもらうことができるでしょう。 -
海外旅行時
海外では、国によってHAEの治療に使える薬が異なるので、渡航先で発作が起きた場合に備えて、治療薬の入手方法を主治医に相談しておきましょう。診断書を主治医に作成してもらい、現地の言語や英語に翻訳して持参するのもよいでしょう。
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国内旅行時
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- 質問: 妊娠または出産時の留意点について教えてください。
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回答:
HAEは、女性ホルモンと関係の深い病気です。生理や妊娠・出産が発作を引き起こす場合があります。妊娠中の発作は、患者さんごとに大きく異なり、妊娠中に発作が減る人もいますし、増える人もいます。
妊娠中は、胎盤から赤ちゃんに血液が運ばれていくことがとても大事なので、発作が起きた場合には、すぐに対処することが重要です。なぜなら、発作が起きて痛みを感じたときには、既に血液から水分が外に出ていて、その水分量は体の表面に発作が起きているときに比べ、消化管に起きたときの方が大量です。そのため、お母さんの血液が大きく減ることで胎盤から赤ちゃんへ行く血流も減り、酸素や栄養を十分に届けられなくなる可能性があるからです。
また、分娩の時に発作が起こることはあまりありませんが、陣痛中または分娩直後に起こることはあります。妊娠がわかったら、お腹の中の胎児を守る事を見据えた発作時の治療について主治医と相談することが大切です。
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- 質問: HAEの疑いがある子どもの留意点について教えてください。
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回答:
HAE の原因となるC1インヒビターは、生まれてすぐの赤ちゃんでは少ししか作られません。ほぼ成人と同じ量が作り出されるのは、3~4歳を過ぎた頃になりますので、あまり小さい時期にC1インヒビターの検査をしても正しい診断につながらない場合があります。
ご両親のうちどちらかがHAEであるので、お子さんに発作らしいことが起きたら、多くの場合、ご両親が気付くことができます。
お子さんにHAEであることを伝えるタイミングや内容は、それぞれのご家族の考え方や、お子さん自身の理解のしかたなどによって異なってきます。十分に病気のことを理解して行動ができる年齢になってから話すようにしましょう。
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- 質問: 高齢者のHAEの留意点について教えてください。
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回答:
高齢者は年齢による身体機能の低下があり、かつしばしば種々の疾患を患っています。そのため心身の疲労や転倒・転落などによる打撲・骨折、また疾患治療のために様々な薬を服用していること等が発作の誘因となることがあるので注意が必要です
一方、年を重ねることで、だんだん発作がなくなってくる人もいます。特に女性の場合は顕著で、閉経の頃になると、徐々に発作が減って、起こらなくなってくることが多くあります。しばらく発作が起きていないのであれば、予防薬を少しずつ減らすことができるかもしれません。主治医の先生に相談してください。
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- 質問: HAEであることを職場や学校にどのように伝えるべきでしょうか?
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回答:
職場や学校には、HAEのことを正確に理解してもらうことが重要です。そのためには、まず本人が十分に病気のことを理解したうえで、本人の口から説明することが一番大事です。
当ホームページのように、インターネットにHAEの正しくてわかりやすい情報がいくつもあるので、説明のためにそういうものを活用するのも一つの手段となります。HAEのことを理解してもらうために、しっかりと伝えることが大切です。
また、HAEの治療環境(HAEの予防薬、治療薬)が良くなって発作そのものを減らすことが可能となってきており、患者さんの生活における問題点が大きく改善されてくると考えられます。こうしたことも併せて伝えてください。
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- 質問: 自分がHAEであることで家族にどんな影響があるでしょうか?
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回答:
HAEの診断がつけば、正しい治療を受けることができます。治療環境(HAEの予防薬、治療薬)が良くなり、発作そのものを減らして患者さんの生活における問題点が大きく改善されているので、ご家族に負担をかけるという心配はいりません。自信を持って生活してください。
また、ご家族・ご親戚などの血縁者にファミリーテストを勧めてください。ファミリーテストにより正しい診断がつけば、正しい治療を受けることができ、未診断の状態で危険にさらされているかもしれない大事なご家族を守ることができます。
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- 質問: HAEのファミリーテストについて教えてください。
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回答:
HAEは、C1インヒビターの遺伝子の一部に変異があることで発症する遺伝性の病気であり、常染色体顕性(優性)遺伝により遺伝します。遺伝子の異常は、50%の確率で親から子に遺伝します。一方、何らかの原因で遺伝子に新生変異(両親ともに正常だった遺伝子に新たに起こる変異)が起こってHAEになることもあります(孤発例)。孤発例の患者さんでも50%の確率で遺伝子の異常がお子さんに遺伝します。もしあなたがHAEと診断されていた場合、ご家族・ご親戚など血縁者の中にHAEの方がいるかもしれません。
ファミリーテストは、HAE患者さんのご家族・ご親戚など血縁者を対象として、HAEを診断するための検査です。 医師の問診と血液検査でHAEを診断することができます。
ファミリーテストにより正しい診断がつけば、正しい治療を受けることができ、未診断の状態で危険にさらされているかもしれない大事なご家族を守ることができるのです。もし、あなたがHAEと診断されていたら、ご家族・ご親戚など血縁者の方にファミリーテストを受けることを進めてください。
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- 質問: HAEと診断された後に生命保険に加入できるのでしょうか?
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回答:
HAEでも、引受基準緩和型保険や無選択型保険に加入することができます。
保険会社や保険商品によって条件は異なりますので、生命保険会社に確認してください。引受基準緩和型保険は、難病と診断されて治療中であっても、一定の条件を満たせば引受基準緩和型保険と呼ばれる保険に加入できる場合があります。引受基準緩和型保険は通常タイプの保険に比べると引受基準が緩和されているため保険料は割増されていますが、難病が悪化した場合でも、保障を受けることができます。
引受基準緩和型保険は一般的に以下の特徴があります。
- 既往症も保障対象になる
- 契約から1年以内は、受け取れる給付金や保険金が1/2になる場合がある
- 保険料は、通常の生命保険より高めに設定されている
※保険会社や保険商品によって条件は異なります。
無選択型保険は、保険加入時の健康状態の告知義務がないため、引受基準緩和型保険よりももっと加入しやすい生命保険です。
無選択型保険は一般的には以下の特徴があります。
- 健康状態の告知が必要ではない。
- 通常の生命保険や引受基準緩和型保険より保険料が割高である。
- 場合によっては、入院給付金が受け取れない場合がある。
※保険会社や保険商品によって条件は異なります。
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- 質問: HAEの医療助成制度について教えてください。
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回答:
HAE患者さんが利用できる医療費助成制度には、「指定難病における医療費助成制度」と「小児慢性特定疾病の医療費助成制度」の2つがあり、所得に応じた金額の医療費助成を受けることができます
指定難病や小児慢性特定疾病の医療費助成を受けるためには条件がありますが、診断書と必要書類を合わせて、お住まいの都道府県等の窓口(保健福祉担当課や保健所等)へ申請して認定を受けると、自己負担を軽減できる場合があります。
一般的には、治療を受けたときに医療機関の窓口で支払うのは医療費の3割です。これらの制度を利用すると、患者さんが医療機関の窓口で支払うのは2割が上限となります。ただし、公的医療保険(健康保険)により、もともと2割負担、1割負担の人は、その割合が適用されます。
また、自己負担の上限(2割負担)とは別に、世帯の所得に応じた月あたりの自己負担の上限額が設定され、2割負担か上限月額のどちらか低いほうが患者さんの負担となります。制度の概要、申請方法や助成金額などの詳細につきましては、当サイトの「医療助成制度」、「指定難病における医療費助成制度」、「小児慢性特定疾病の医療費助成制度」のページをご参照ください。
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- 質問: HAEの患者さんは全国にどのぐらいいるのでしょうか?
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回答:
希少疾患の1つであるHAEの有病率は5万人に1人といわれており1) 2) 、日本にはおよそ2,500人の患者さんがいると推定されます。しかし、国内で診断・治療中のHAEの患者数は430名程度(2016年時点)3)しかいないという調査結果もあり、日本では診断されずに困っている患者さんが数多くいるのが現状です。
HAEの患者さんとそのご家族のサポート活動を行っている患者会に「くみーむ」と「HAEJ」があります。「くみーむ」はHAEまたは血管性浮腫の患者さんやご家族の方が手をたずさえて病気に立ち向かい、そしてその活動を支援する人たちがここに集うことによって、患者さんが安心して生活できる医療と福祉の実現を目指すことを目的としています。血管性浮腫について広く正しく理解していただき、さまざまな悩みを抱える患者さんやそのご家族の大きな励ましとなるようにサポートしていくための活動をしています。
「HAEJ」は患者さん同士の交流や医療関係の情報交換など、患者さんやご家族が毎日を健康に楽しく暮らしていけるよう、国際NPO団体であるHAEi(インターナショナル)と協力して、活動しています。未診断の患者さんが一日も早く正確な診断がつき、治療環境を良くしていくため、患者交流会の開催や情報収集と研究を行っています。患者さん、ご家族、医師などが一緒に楽しみながらHAEについて深めていける患者会を目指しています。- 1) Zuraw BL. N Engl J M ed 359 :1027-1036, 2008.
- 2) Lang DM, et al . Ann Allergy Asthma Immunol 109 (6) :39 5-402, 2012
- 3) 大澤勲編:難病遺伝性血管性浮腫 HAE 医薬ジャーナル社
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- 質問: 腹痛や下痢を起こしているときの食事や水分補給はどうすればよいでしょうか?
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回答:
腹痛や下痢があるときは、胃や腸に腫れがあると考えられます。そういうときに食べたり飲んだりすると、飲み込んだものがうまく胃腸を通らずに吐いてしまったり、痛みが強くなってしまったりすることにつながります。軽い発作の場合には、少量ずつ水分を取っても大丈夫ですが、重症の発作の場合には、あまり飲食をしない方が良いでしょう。
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- 質問: 発作の頻度について教えてください。
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回答:
発作の頻度は一定ではありません。1週間に複数回起こることもあれば、発作の間隔が数年あくこともあります。女性の場合は生理の前後に発作を繰り返すこともあります。
発作のきっかけは、心労、疲れ、寝不足などの精神的・肉体的ストレスです。手術や歯科治療、服用しているお薬(ホルモン剤、ACE阻害薬等)、生理や妊娠・出産も発作を引き起こす可能性がありますが、なんのきっかけもなく出現することもあります。
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- 質問: 結婚する相手やパートナーに自分がHAEであることをどのように伝えたら良いのでしょうか?
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回答:
HAEは確率的には50%でお子さんに遺伝しますので、生まれてくるお子さんが、自分と同じ病歴をたどる可能性があるということは、相手に伝えておくべきでしょう。伝えるうえで大切なのは、治療環境(HAEの予防薬、治療薬)が良くなり、発作そのものを減らして患者さんの生活における問題点が大きく改善されているということをしっかりと説明することです。発作の時にはご自分で対処できますし、長期予防の薬もあります。こうしたことをよく説明してください。