遺伝性血管性浮腫(HAE) Doctor to Doctor 遠隔相談 のご案内
当法人では、希少疾患であるHAEの早期診断率向上を目指し、専門医への無料相談を受け付けています。
診断内容や治療方法に疑問があれば、お気軽にご相談ください。
【詳細は以下よりご覧ください】
https://discovery0208.or.jp/doctor-to-doctor/
遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema: HAE)とは
HAEは、主に遺伝子の変異が原因で血液の中にあるC1インヒビター(C1エステラーゼインヒビターまたはC1インアクチベーターともいう)の低下およびその機能が低下する病気です(稀にC1インヒビターの量、機能共に正常なタイプも存在します)。 体のいたるところに2~3日持続する腫れやむくみ(血管性浮腫という)を繰り返します。 個人差がありますが、10歳から20歳代に発症することが多く、皮膚(手足、顔面、生殖器など)が腫れた場合は一見すると「じんま疹」に似ていることがありますが、強いかゆみを伴わないのが特徴です。のどが腫れる場合は呼吸困難におちいり、生命の危険をきたす可能性があります。また、お腹(胃や腸)が腫れると腸閉塞と同様に嘔吐したり、強い痛みを感じることがあります。
遺伝性血管性浮腫の課題
HAEは、希少疾患であるがゆえに、認知度の低さや診断に求められる専門性の高さから診断に時間を要することが知られています。日本では初発から診断まで平均で15.6年かかっているとされており、その間、患者さんは時に生命の危険を来す可能性があるこの疾患に苦しんでいます。
当法人は未診断でHAEに苦しんでいる患者さんを支援するため、適切な早期診断の実現を目指して活動しています。
診断までに30年以上かかった症例
HAE(遺伝性血管性浮腫)の患者数は、5万人に1人と報告されていますが、実際にはもっと多くの患者がいるといわれています。その理由に、発症した際に正しい診断がつきにくいというHAEの特徴があります。遺伝形式は顕性遺伝(優性遺伝)であり、25%に家族歴のない弧発例が認められます。ここでは、発症から診断まで30年を有した症例をもとに、専門医からのアドバイスをいただきました。
【あき子さん(50代・女性)】
高校生の頃に原因不明の腹痛で悩まされた
-最初の症状は、いつ頃どのようなものだったのでしょう?
高校生の頃、腹痛として現れたのが最初です。胃のむかつきもあったので、バリウム検査や胃内視鏡検査を行いましたが異常はなく、精神的なものだろうといわれました。その後も、月1回くらいの頻度で繰り返し腹痛が起こり、学校は休みがちでした。
-腹痛のほかにも症状はありましたか?
22歳から30歳くらいまでは脚がときどき腫れました。22歳のときふくらはぎから下が腫れ、痛みがあったため、肉離れの疑いで入院して検査したのですが、筋肉に異常はなく、下肢静脈瘤によるむくみではないかといわれ、それ以上のことはわからないままでした。
繰り返し症状が現れるため、疲れが原因かもしれないと利尿薬を処方されました。利尿薬を飲むと2〜3日で腫れはよくなりましたが、いま思えば、利尿薬の効果だったのか、時間の経過で自然に治まったのかわからないです。
-その後も症状は続きましたか?
30代から40代の初め頃までは比較的落ち着いていましたが、転職して1〜2年経った頃、また脚が腫れるようになったのです。仕事は以前よりも心身の負担が少なかったので、病院では私が当時飲んでいたサプリメントが体に合わないのではないかといわれ、飲むのをやめました。すると3日くらいで腫れは引きましたが、これも自然な消失だったかもしれません。
歯科治療後に顔が腫れ、かかりつけ医が気づく
-HAE診断に至った経緯を教えてください。
40代の終わり頃、歯の治療をした後に唇が腫れてしまったのです。それまでにも何回か通院していたのですが、その日は治療中から上唇の内側がちょっとヒリヒリして、家に帰るとみるみる上下の唇が腫れ、顔全体に腫れが広がっていきました。これはいつもと違うぞと思い、救急外来に駆け込んだところ、「おそらくクインケ浮腫でしょう。一度専門医に診てもらったほうがいいですよ」と皮膚科への受診を勧められました。
皮膚科を受診する前にいつも診てもらっているかかりつけ医に相談した後、リウマチ科の先生を受診しました。
そこで、「そういえば、君はいろいろなところが腫れるね。血管性浮腫の精密検査を行いましょう」と血液検査をすることになったのです。
その結果、C1インヒビターの値が低いことがわかり、大学病院の専門医を紹介してくださって、診断に至りました。
HAEと診断されたのは50歳のときです。最初に症状が出てから診断まで33〜34年かかりましたね。数年前、夫の父が急死して、おそらく過度のストレスがかかり、40分くらいで顔がパンパンに腫れてしまいました。いままででいちばん重い発作で、顔はまるで獅子舞の獅子頭のようになり、口の中まで腫れて話すことも食べることもできませんでした。現在は複数の医療機関が連携して診てくださっているので、そのときも十分な対応をしていただきました。おかげで翌日の葬儀には出席できました。
子どもは検査によって早期診断がついた
-お子さんがいらっしゃるということですが、検査はされていますか?
息子が4人いますが、うちは双子2組で、上が一卵性双生児で、下が二卵性双生児です。私がHAEと診断された後、息子4人も同じ大学病院で検査を行い、そのうち二卵性の双子の1人がHAEと診断されました。
その子は14歳のときに虫垂炎になったのですが、私がHAEと診断される前だったので、当然、子どももそんな病気であるとは思い当たりませんでした。超音波検査を行った際、腸がボンレスハムのように腫れていたそうです。息子は腹膜炎を起こしていたため、外科を紹介されて開腹手術をしましたが、腸の腫れの原因は不明でした。
16〜19歳の頃には、お腹の痛みや張り、違和感を訴えることが度々ありました。救急で病院に行き開腹手術を提案されたこともありました。それは避けたいと思い、別の病院を紹介してもらい、いくつもの検査をして手術の適応外といわれたので、あのとき手術をしなくて本当によかったです。現在は症状が落ち着いていて、医療系の有資格者として働いています。
-これをご覧になった先生方や医療従事者に伝えたいことはありますか?
HAEをご存知の先生ばかりではないことは承知しています。C1インヒビター製剤を常備している中核病院であっても、先生や看護師さんがご存知ないことがあります。私の場合は担当医がカルテに治療に関してしっかり書いてくださっているため困らないのですが、HAEという病気は本当にマイナーなのだなと思い知らされます。一方、看護師さんのなかには勉強したいので教えてくださいと質問を受けることもあり、そんなときはうれしく感じます。
私の場合は、かかりつけ医が夜間や休日の対応の段取りもつけてくれました。専門医のいる病院とも緊密に連携をとり対応をしてくれています。このように患者に寄り添ってくれるかかりつけ医がいるということは、病気をもつ身にはありがたく、安心して生活することができます。
また、HAEは歯の治療をきっかけに発作を起こすことが多いので、歯科の先生方には広く知ってもらえると安心です。
私はもしものときのために、自分がHAEであることを医療従事者に伝え、適切な治療を受けられるように備える「HAEカード」を持っています。しかし、診断がつかなければこのような対応もできません。私は喉が腫れて呼吸困難になったことはありませんが、多くの先生にHAEを理解していただくことで、早期診断につながり、発作時に治療が受けられる医療機関が増えてHAE患者が安心して暮らせる社会になってほしいと願っています。
専門医からのコメント
今回の症例がHAEの診断に結びついたポイントとしては、救急外来の医師が顔面の腫れを診て、クインケ浮腫を鑑別に挙げたこと、その後かかりつけ医を介してリウマチ科の専門医に患者さんが紹介されたことが挙げられます。また、顔面の浮腫が生じる前に一過性の脚の腫れや原因のはっきりしない腹痛の既往があったことは、問診上のポイントとなる可能性があります。原因不明の腹痛と脚の腫れの時点でC4やC1-INH活性などの補体の測定が行われていればもっと早くに診断に至っていたと想像します。
一方で、HAE診断の難しさは、皮膚症状や腹部症状、顔面浮腫などを総合的に判断する必要がある点です。例えば、腹痛を起こす疾患はたくさんあり、HAEでは血液検査をしても白血球の増加等しかありません(人によりD-ダイマーの上昇があります)。この疾患を知らなければ、多くの消化器科の医師は、症状が軽度の場合は腸炎やIBS(過敏性腸症候群)、重い場合は虫垂炎などと診断されると思います。今回の症例の息子さんの腹膜炎もしっかり調べていれば、HAEという診断がここで出たかもしれません。ただし、腹痛だけでHAEを診断するのは非常に難しいと思います。
今回の症例でもありましたが、歯科治療はHAEの発作の誘因となるもので、歯科治療は代表的な事象となります。
その他、精神的ストレス、肉体的ストレス、打撲、妊娠、ホルモン剤なども発作の誘因となります。
特に抜歯などの観血的処置が浮腫発作の誘因となりますが、患者の体調(疲労)やそのときの発作頻度、さらに歯科治療の侵襲(精神的ストレス含む)などにも左右されると考えられています。経験からお話しすれば、毎回抜歯の際に腫れる方もいれば、ときによって腫れる方もいます。歯の局所麻酔が誘因となる方もいました。また、歯科治療の際は、口腔顔面が腫れることが多いのですが、手掌など、関連がない個所に腫脹をきたすこともあるようです。
日頃からHAEに理解のある「かかりつけ歯科医」が、HAE発作への対応が可能な病院の歯科口腔外科と連携をとって治療にあたることが患者さんにとっては望ましいと考えます。
HAEの症状は、腹痛が多い、皮膚症状が多いと人によってわかれるように思います。ただし、いずれの部位でも浮腫の発作が生じる可能性はありますし、加齢とともに発作の生じやすい部位が変わることもありえます。
今回、この記事を読んでいただいた先生方には、HAEは適切に診断を行うことで、本邦では患者さんのQOLを著しく改善することができる医療体制や薬剤が整いつつあることをご理解いただきたいと思います。HAEの浮腫に関連する発作は、四肢、顔面、腹部、喉頭のみでなく陰部や脳など体のあらゆる部位に生じる可能性があるため、数日で消失する浮腫や原因不明の腹痛発作を繰り返す場合には、鑑別診断にHAEを挙げることが重要であると考えます。
そのためには、まずHAEという疾患を知ってもらうことが一番だと思います。特に症状の半数は消化器症状ですが、消化器内科の先生の認知度は低く、また関心も少ないように思われます。
原因不明の腹痛や皮膚症状で受診した人に対しては、まずは血液検査でC4できれば同時にC1-INH活性を測定してもらえればと思います。C4が低値で腹痛を起こす疾患は、SLE(全身性エリテマトーデス)などに限られ、他の補体もあわせて測定することで鑑別がつくことがあります。開業医の先生が最初の血液検査でC4を測定するのは保険診療の範囲では難しいかもしれませんが、病院の先生方は、他院から原因不明の腹痛の患者さんが精査目的で紹介されてきた場合は、C4できれば同時にC1-INH活性を測定していただければと思います。
遺伝性血管性浮腫(HAE) Doctor to Doctor 遠隔相談 のご案内
当法人では、希少疾患であるHAEの早期診断率向上を目指し、専門医への無料相談を受け付けています。
診断内容や治療方法に疑問があれば、お気軽にご相談ください。
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※本記事は2022年に作成した内容です。治療の際は最新の情報をガイドライン等でご確認ください。