遺伝性血管性浮腫(HAE) Doctor to Doctor 遠隔相談 のご案内
当法人では、希少疾患であるHAEの早期診断率向上を目指し、専門医への無料相談を受け付けています。
診断内容や治療方法に疑問があれば、お気軽にご相談ください。
【詳細は以下よりご覧ください】
https://discovery0208.or.jp/doctor-to-doctor/
HAEの検査
HAEの診断に用いられる臨床検査は主に血液検査です。
HAEはHAE 1型、2型、3型(HAE with normal C1-INH:HAEnC1)に分類され、1型と2型は血液検査の結果と家族歴の有無により診断が可能です。HAE3型に関してはC1インヒビター活性(C1-INH:C1-inhibitor)などが正常範囲のこともあり、通常の臨床検査だけでは診断が難しいといえます1)。
【表.HAEの病型】
「遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)診療ガイドライン 改訂2019年版」
HAE診断のための必須検査項目
症状や問診した内容からHAEが疑われる場合は血液検査を行いますが、その際C1インヒビター活性とC4濃度の測定が必須となります。これらは公的医療保険が適用されます。
C1インヒビター活性
HAE 1型/2型では発作時、非発作時にかかわらず、C1インヒビター活性の低下を認めます。HAE 1型/2型の患者では活性50%以下となり、発作のない場合でも多くが25%以下となります1)。
補体C4濃度
HAE 1型/2型の患者ならば、発作時には100%、非発作時であっても98%で補体C4濃度の低下を認めます2)。検査結果は、院内の臨床検査科で実施している場合は当日に出ますが、検査会社に委託している場合の所要日数は3~5日といわれています。いずれにしても、C1インヒビター活性よりも検査結果にかかる日数が短いことから、補体C4濃度の測定は有用であるといえます。
検査結果からの考察
【C1インヒビター活性、補体C4濃度がいずれも基準値以下の場合】
HAEが強く疑われます。ただし、後天性血管性浮腫(Acquired angioedema:AAE)でもC1インヒビター活性、補体C4濃度が基準値以下となるため、鑑別には必ず家族歴の有無を聴取します。家族歴がある場合はHAE 1型/2型と診断できます。ただし、欧米ではHAEの患者の20~25%が家族歴のない孤発例であるという報告3)もあり、国内の調査でも孤発例の頻度に欧米と明らかな違いはありません。したがって、家族歴がないというだけでは、HAEを排除することはできません。
HAE 1型か2型かの鑑別は、C1インヒビター蛋白定量検査により行います。
【C1インヒビター活性、補体C4濃度がいずれも基準値内の場合】
C1インヒビター活性、補体C4濃度が基準値内であっても、浮腫発作が起こる場合はHAE疑いを否定することはできません。
発作時に検査すると基準値以下になることも少なくなく、またHAE 3型では補体C1インヒビター活性、C4濃度とも基準値内を示すためです。浮腫発作を繰り返す患者には繰り返しこれらの検査を実施し、検査結果にかかわらず家族歴の有無についても確認することが重要です。発作時の検査でC1インヒビター活性、補体C4濃度がいずれも基準値内で、家族歴がない場合はHAE以外の血管性浮腫が疑われます。
C1インヒビター活性、補体C4濃度以外の主な検査項目
・C1インヒビター蛋白定量
HAE 1型ではC1インヒビター蛋白量が低下し、2型では低下がみられないため、この検査は両者の鑑別に有効です。ただし、C1インヒビター蛋白定量の検査に公的医療保険は適用されず、どちらの病型であっても治療方針は同じであることから、一般臨床の多くの場合この検査は日常診療では実施しないことが一般的です。
・C1インヒビター遺伝子解析
HAE 1型/2型は、C1インヒビター遺伝子(SERPING1)にヘテロ変異を認める常染色体優勢遺伝形式の疾患です。一方、HAE3型はSERPING1に異常を認めません。一部の患者さんで凝固第Ⅻ因子(F12)などの遺伝子に異常を認めることがあります(表)。
遺伝子検査は、国内外のHAEガイドラインで診断確定のために必要でないことが示されていますが、家族歴がない場合(孤発のHAE 1型/2型)や、HAEの親をもつ小児でC1インヒビター活性、補体C4濃度が基準値内の場合には有用です。なお、HAE 1型/2型およびHAE3型の一部の遺伝子検査は保険診療で実施することもできます。
HAEの診断
【図 HAE診断アルゴリズム】
遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)診療ガイドライン 改訂2019年版
HAEの診断基準
以下の診断基準がすべて揃えばHAE 1型もしくは2型と診断できます。
1. 血管性浮腫による症状 2. C1インヒビター活性の低下(<50%) 3. 家族歴(同一家系内に1と2を有する者が本人以外にもいる) |
C1インヒビター活性が基準値内であっても、血管性浮腫による症状があり、家族歴も認められる場合にはHAEを診断から除外することはできません。確定診断には遺伝子検査が必要ですが、アレルギー・蕁麻疹がなく、かつ発作時に抗ヒスタミン薬やステロイド薬が無効である場合にはHAE 3型の可能性があります。
家族にも検査を勧める
HAEは遺伝性疾患なので、同一家系内には高い確率でHAE患者が存在することが考えられます。家系内の誰かがHAEと診断されたら、血管性浮腫の症状を有する人はもちろんのこと、症状がなくても同一家系内の人にはC1インヒビター活性や補体C4濃度の検査を勧めることが推奨されます。 |
HAEの治療
HAEにはいくつかの治療薬があり、少なくとも1型/2型の治療法についてはガイドラインで詳しく述べられています。薬物治療には発作出現時の対症療法(オンデマンド治療)と発作が出現することを防ぐ予防的治療があります。
急性発作時の治療
公的医療保険適用となっている薬剤は、ヒト血漿由来凝縮C1-INH製剤(商品名:ベリナート®︎P静注)とブラジキニンB2受容体拮抗薬(一般名:イカチバント、商品名:フィラジル®︎皮下注)の2剤です。
いずれも薬価が高く、難病指定を受けていない患者には経済的負担についても十分に説明する必要があります。
HAEの深刻な症状として咽頭・喉頭浮腫があります。HAEが疑われる患者が咽頭・喉頭浮腫を起こした場合は、ためらわずに救急医療へつないでください。
予防的な治療
短期予防
抜歯など、侵襲を伴う医療処置の実施が予定されている場合は、発作を防ぐために予めC1-INH製剤を静脈内投与することができます。処置の前6時間以内に投与することが推奨されています。
長期予防
長期予防については、2021年4月から経口血漿カリクレイン阻害薬(一般名:ベロトラルスタット、商品名:オラデオ®︎カプセル150mg)が使用可能となりました。適応は「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」であり、急性発作には使用できません。成人および12歳以上の小児に1日1回150mgを経口投与します。また、2022年3月には抗血漿カリクレイン抗体(皮下注射)(一般名:ラナデルマブ、商品名:タクザイロ皮下注)、2022年9月にはC1-INH 製剤(皮下注射)(一般名:乾燥濃縮C1-インアクチベーター製剤、商品名:ベリナート皮下注用2000)の製造販売が承認されました。
発作を誘発するリスクを回避することが大切
HAEの発作は、外傷や歯科診療での麻酔や抜歯、過労などの身体的ストレス、妊娠、月経、薬物、精神的なストレスなどで誘発されます。患者には、発作の記録をつけてもらうとよいでしょう。どのようなときに発作が起こりやすいかを知り、リスクをできるだけ避けることによって、発作の頻度を減らしたり発作の程度を小さくしたりすることにつなげます。
また、発作を誘発する薬剤として、エストロゲン含有製剤、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などが知られています。
HAEの現状と、専門医との連携
日本におけるHAEの患者数は5万人に1人という報告が多く4)5)、まれな疾患です。そのため医療者に対しても十分な知識が浸透しているとはいいがたいのが現状です。
国内で行われた患者調査では、発症から診断まで平均14〜15年6)、初診から診断まで平均7年6)という長い時間を要しています。なかには診断までに30年、40年かかった人もおられます6)。診断の遅れの理由として患者自身が発作に気づいていないこともありますが、いくつもの病院を受診しても診断がつかず、患者さんが治療を諦めてしまっていた例もあります。さらには、咽頭・喉頭浮腫による気道閉塞を起こして死に至った例も報告されています。
しかし、HAEは血液検査と家族歴でほぼ診断でき、治療法も確立されていますので、原因不明の浮腫発作を繰り返す患者や、原因不明の咽頭・喉頭浮腫、腹痛で受診した患者を診た場合は、ぜひ鑑別疾患の1つにHAEを加えていただきたいと思います。HAEは、早期に診断できれば浮腫発作が起きても大事に至らず、適切な治療薬の使い方により発作出現を予防することも可能であり、患者の命とQOLを守ることができます。
HAEの多くはガイドラインに書かれた診断基準により診断が可能ですが、診断に苦慮する場合や治療については専門医※に依頼していただくのが良いでしょう。
※日本専門医制評価・認定機構が認定する専門医を指すものではなく、HAE領域の診療・患者支援に長年尽力されている医師を指します
1)堀内孝彦.遺伝性血管性浮腫(HAE).In:日本免疫不全症研究会編.”原発性免疫不全症候群診療の手引き”.東京、診断と治療社、130-135(2017)
2)Bowen T, Cicardi M, Farkas H, et al. 2010 International consensus algorithm for thediagnosis, therapy and management of hereditary angioedema. Allergy Asthma Clin.Immunol. 6: 24 (2010)
3)大澤勲編『難病 遺伝性血管性浮腫 HAE』、医薬ジャーナル社、2016年8月
4)Zuraw BL:Clinical practice. Hereditary angioedema. N Engl J Med 359: 1027-36,2008.
5)Lang DM, Aberer W, Bernstein JA,et al: International consensus on hereditary and acquired angioedema. Ann Allergy Asthma Immunol 109(6):395-402,2012
6) K Iwamoto et al. Allergol Int. 2021;70:235-243.
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※本記事は2022年に作成した内容です。治療の際は最新の情報をガイドライン等でご確認ください。