遺伝性血管性浮腫(HAE) Doctor to Doctor 遠隔相談 のご案内
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HAEの症状-皮膚と頭頚部
遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema:HAE)による浮腫発作は、血管が存在するところならどこにでも起こる可能性があります。全身のあらゆる場所に出現しますが、皮膚の場合は四肢や顔面、陰部など、頭頚部の場合は咽頭・喉頭や舌などに比較的多く生じます。同時に複数の部位が腫れることもあります。
いずれの場合も浮腫は通常24時間で最大となり、数日で完全に消失します。しかし、頭頚部に生じた場合は発語、飲食などに支障をきたし、とくに咽頭・喉頭の浮腫は呼吸困難を引き起こして死に至ることもあります。
皮膚の症状
最も多くみられるのは四肢の浮腫です。四肢のどこにでも現れますが、わかりやすいのは手背部や足背部です。顔面の浮腫は、眼瞼や口唇に出現する頻度が比較的高いとされています。
足背部の浮腫は鑑別疾患が多い一方、手背部や顔面に浮腫が出現する疾患は比較的稀なので、HAEを鑑別に挙げることが重要です。
患者さんは、痛みなどの自覚症状が少なく体の一部が急に腫れてくるため驚かれます。腫れを生じるということで蕁麻疹に似ていることから皮膚科を受診する人が比較的多いですが、内科や外科などを受診する人もいます。
頭頚部の症状
頭頚部の浮腫は、顔面や眼瞼の浮腫、口唇や口腔内の浮腫、舌の浮腫、咽頭・喉頭浮腫に大きく分けられます。なかでも咽頭・喉頭浮腫は、適切な処置が行われない場合の死亡率は30%に達するとの報告もあるため、迅速な診断と処置が求められます。
頭頚部の浮腫発作は歯科治療のあとに出現することがよくあります。歯科治療のための麻酔や抜歯、インプラント埋入などが引き金となる場合が多いですが、歯型を取っただけで浮腫を起こす患者さんもいます。また、歯科治療以外では上部消化管内視鏡の検査もリスクの1つになり得ます。疲労やストレスがあると浮腫発作を起こしやすくなるようです。
トリガーとなる刺激を受けてから浮腫発作が起こるまでの時間は人によって異なり、刺激を受けた直後から異変を感じることもあれば翌日になって腫れることもありますが、時間が経過しているとトリガーとの関連に気づきにくくなります。歯科治療と浮腫発作の関係に気づいた場合でも、麻酔薬のアレルギーだと思い込んでしまうことがあり、このようなケースにHAE患者が潜んでいる可能性があります。
頭頚部に浮腫が生じた場合、患者さんは主に内科や歯科・口腔外科、耳鼻咽喉科を受診しますが、息苦しさを感じたり、夜間に急激に顔面や口腔内が腫れた場合は、総合病院の救急外来への受診となります。息苦しさが悪化してきた場合は、救急車を呼んで対応することも必要です。
HAEを疑う症候(HAEによる浮腫発作の特徴)
- 皮下浮腫、粘膜下浮腫(痒みを伴わない、陰部を含むあらゆる部位)
- 消化器症状(腹痛、吐き気、嘔吐、下痢)
- 喉頭浮腫(3歳以下では稀。喉頭浮腫を生じたにもかかわらず適切に治療をされない場合の致死率は30%)
- 発作は精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠、生理、薬物などで誘発される
- 発作は通常24時間でピークとなり72時間でおさまることが多いが、それ以上続くこともある
- 家族歴がある
- 発症は10~20歳代が多いが、あらゆる年齢で発症しうる
「遺伝性血管浮腫(HAE)ガイドライン(改訂2019年版)」一般社団法人日本補体学会HAEガイドライン作成委員会
診察のポイント
HAEの診察で重要なのは、問診と身体所見です。過去の浮腫発作の有無や部位、家族歴などを詳しく聴取し、浮腫を詳細に観察します。
問診
- 過去の浮腫発作を中心とした詳細な病歴、家族歴
- 誘発因子(精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠、生理、薬物 など)
- 前駆症状(輪状紅斑や疲労感・倦怠感)
身体所見
- 浮腫の部位
- 痛みや瘙痒感の有無
- 圧痕性か非圧痕性か
浮腫の鑑別アルゴリズムとHAE
専門医が教える診断のポイント
鑑別が必要な疾患
蕁麻疹、アナフィラキシー、特発性血管性浮腫、アレルギー性血管性浮腫、薬剤誘発性血管性浮腫、リンパ浮腫、心臓・肝臓・腎臓などの基礎疾患による浮腫、後天性血管性浮腫など
蕁麻疹との鑑別
血管性浮腫と蕁麻疹は、皮膚が急に腫れ、その後完全に消失するという点でよく似ています。しかし、蕁麻疹が主に真皮上層に起こる変化であるのに対し、血管性浮腫は真皮深層から皮下組織(または粘膜組織)に現れる限局性の変化です。また、血管性浮腫では蕁麻疹よりも腫れが長く続き、消失するまでに通常72時間程度かかります。
HAEの前駆症状である輪状紅斑は、約半数の患者さんに出現します。蕁麻疹のようにもみえますが、痒みはなく、蕁麻疹に特徴的な隆起性の境界不明瞭な膨疹形成はみられません。この違いが鑑別の重要なポイントとなります。
血管性浮腫の特徴
- 真皮深層から皮下組織(または粘膜組織)に現れる限局性の変化
- HAEに伴う血管性浮腫では発赤や瘙痒感が少ない
- 隆起性の境界不明瞭な膨疹(赤みを伴う膨らみ)形成がみられない
- 蕁麻疹は多くが24時間以内に消失するが、血管性浮腫は消失するまでに通常72時間程度かかる
蕁麻疹 | 血管性浮腫 | |
---|---|---|
発現部位 | 皮膚の真皮上層 | 皮膚の真皮中層〜深層、粘膜下組織 |
好発部位 | 皮膚 | 顔面、粘膜移行部、消化管 |
腫れがひくまでの時間 | 24時間以内が多い | 1〜3日 |
浮腫の赤み | 強い | 弱い |
浮腫の自覚症状 | かゆみが主体 | チクチク感、灼熱感、時に痛みが主体 |
参考「蕁麻疹診療ガイドライン 2018」(日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン改定委員会)
アナフィラキシーとの鑑別
HAEによる頭頚部浮腫は限局性のため、アナフィラキシーとは異なり蕁麻疹などのかゆみを伴う皮膚症状を伴うことはありません。しかし、咽頭・喉頭の浮腫は呼吸困難を引き起こし死に至る危険もあるため、患者さんが息苦しさや嗄声などを訴えている場合は、急ぎ救急医療につなげる必要があります。
のどの腫れ(咽頭・喉頭浮腫)の症候
- のどのつまり(嚥下障害)
- 嗄声、話しづらい
- 声の変化
- 息苦しさ
- 極端な場合は、窒息
救急対応が必要な咽頭・喉頭浮腫の特徴と処置
HAEの患者さんに咽頭・喉頭浮腫が起こると、患者さんは嗄声やのどの閉塞感、呼吸困難感などを訴えます。その場合は気道を確保したのち、C1インヒビター(C1-INH)製剤または選択的ブラジキニンB2受容体ブロッカーを投与します(遺伝性血管性浮腫に対するWAO・EAACI国際ガイドライン 2021年版)。
HAEの症状はC1-INH蛋白の減少・機能異常またはブラジキニンの過剰産生が原因ですので、いずれかを投与することにより咽頭・喉頭浮腫は速やかに改善しますが、投与が遅れ、気管閉塞に至った場合は気管切開が必要になることもあります。
HAEによる咽頭・喉頭浮腫は、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬、エピネフリンは効果がなく、これらの投与で改善しない場合にはHAEが疑われます。
HAEが疑われる患者さんへの注意の伝え方
HAEが疑われる場合、補体C4濃度とC1-インアクチベーター(C1-INH)活性を調べますが、後者の結果が出るまでには通常4~7日かかります。検査結果がわかる前に浮腫が消失していることは十分に考えられますが、症状がなくなっても患者さんには必ず検査結果を説明するように心がけてください。
受診時すでに浮腫が消失していて抗ヒスタミン薬等の有効性を確認できない場合は、検査結果が出るまでの間、患者さんの不安を軽減するために、再度浮腫発作が出現した場合に備えて抗ヒスタミン薬を処方しておいて効果を確認するのもよいでしょう。ただし、息苦しさや嗄声がみられたらすぐに救急科を受診することも伝えておいてください。
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※本記事は2022年に作成した内容です。治療の際は最新の情報をガイドライン等でご確認ください。